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(転載禁止/許可したものはそれとわかるように書きます)

Firebox & Firebox nano

Firebox と Firebox nano を購入して数回使ってみた.どちらもネイチャーストーブとよばれるカテゴリに属し,ワンタッチで組み立てられるのが特徴.微妙に用途が被っているものを2つ買うのもなんだが,デザインの勉強代であり,必要経費だと思うことにする.だいたいキャンプに行くと刃物と火に夢中になって写真を撮り忘れるので,自宅で再現した写真しかない.

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Firebox nano(左),Firebox(右)

どちらも燃料をくべるための穴が2面にあいており,細く割った薪を差し込んで燃やすことができる.薪が燃えて短くなったら内側へ押し込むことで燃焼を持続させる.また,組み立てがワンタッチで済み,思い立ったらすぐ火を起こせるのも共通の利点.うまく使えば 500 mL くらいの湯が沸かせる.

Firebox

荷物に余裕があり,どちらか1つだけ持っていくとしたら Firebox だと思われる.穴の高さは 19 mm で,それなりの太さの薪をくべられるので燃焼が安定する.普通に燃えて普通に使えるので,正直なところ書くことが思い浮かばない.買って損はない

Firebox nano

荷物に余裕がないがどうしても焚火がしたいとき,あるいは追加で数分だけ火が必要になったとき,朝食の調理をするときなどに便利.小さいので,燃えるのも消えるのもすべてが早い.軽くて不安定など,欠点はそれなりにあるが,小回りがきいてカワイイのですべてが許せるチタニウム製のものもあるそうだが,僕の用途では 60g の軽量化に価値を感じなかったのでステンレスのほうにした.登山などする場合はチタニウム製がよいかもしれない.

FRENZ 2018 出展作 'Illum' 制作メモ

新作映像上映イベント FRENZ 2018 に作品を出展しました.観覧いただいたみなさま,ありがとうございました.以下,制作メモです.


着想

今回の作品 'Illum' では,質感と重さのある光の表現を試みた.削れるものは可能なかぎり削らないとコンセプトが弱まるので,イージングも動きも付けていない.

抽象的な作品は要素数で押せないぶん,質感のような別の要素を活用するのはひとつの方法である.抽象画の重要な作家であるパウル・クレーについて,寺門 (1998) *1は次のように述べている.

まず「素描の厳格な輪郭線をほぐす努力」の結果として彼が到達したのは,「転写」によって線の硬さを緩和することであり,またそれによって生じた豊かな表情の線質を殺さずに彩色を施すことだった.

ここでいう「転写」とは,現代でいえばカーボンコピーのようなものである.これは,入力の不完全な再現が質感を付与すると見ることもできる.

単に映像に劣化を与える手法は,擦れやグリッチヴィネットなどで普及しきっている.そこで,一旦映像という枠を外し,仮想的な照明とその動きを表現するという方針を立てた.会場のプロジェクタは非常に明るく,問題になりがちな緑色被り*2や彩度低下*3もほとんどないので,この類のコンセプトにとってはよい環境だった.

仮想的な照明の組み合わせとして映像を表現することは,光を透明水彩のように使うことにもつながる.透明水彩を特徴づけるのは重色技法であり,それを光に読み換えると,照明の同時点灯が最も自然な類推だと考えられる.

制作

線描に質感を与える

線の描画は,ベクタスキャンディスプレイの簡易なシミュレーションを Processing で行っている*4.ベクタスキャンディスプレイとは,簡単にいえばオシロスコープのXYモードのようなもので,ピクセルを左上から順番に描画するのではなく,輝点を画面上で自由に動かして形状を描画するものである.

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理想的な条件でシミュレーションを行っても,入力の完全な再現が行われるだけで質感は付かない.そこで,この手のものに典型的な欠陥として,輝点の動作に遅れ要素を入れ*5,入力図形の再現性を下げることにする.系の時定数により,図形の崩れ方は下図のように変化する.

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この処理は,四角形の描画だけに適用した.全ての要素に適用すると画面が崩れすぎるし,そもそもベクタスキャンディスプレイでは光の面を作れないので,光の面にこのタイプの歪みを適用するのはモデルとして正しくない.

光に質感を与える

この作業では Blender + Cycles を使用した.

  • 板ポリゴンにテクスチャを貼ったライト(つまり,プロジェクタ)を当てている.ライトの光軸から外れた部分が暗くなり,単なるフラットな図形とは違った質感が得られる.
  • 各図形要素(四角形,縦線,面)を一つのライトから投影しただけでは After Effects でエフェクトをかけるのと変わらないので,図形要素ごとにライトを割り当て,以下のように処理した.
    • ライトを全て異なる位置に置いている.
    • 各ライトは,微妙に異なる色に色被りさせている.
    • 各ライトにそれぞれ異なる量の倍率色収差・ボケを付けている.

レンダリング結果は以下のとおり.このライトの光軸は画面右上にあるので,光軸に近いピクセルほど明るく,また色収差は左下隅に大きく出る.なお,このライトはわずかに紫に色被りさせてある.

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Blender シーンの全体は以下スクリーンショットのとおり,素朴にモデリングした.Blender Cycles では Point Light の size を変化させることでボケの大きさを調整できる.

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キーフレームを打つ

制作段階では,このブログでも何度か登場している Vezér から OSC を経由して Processing にキーフレームを渡して描画させている.書き出し時にはフレームレートを安定させるため, Vezér からキーフレームを XMLレンダリングし,それを Processing で改めてパースしてオフラインレンダリングを行っている.

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制作環境

Processing
Java ベースのデジタルアート用言語.比較的古くからあるのでノウハウが蓄積されているが,一方で Java 特有のつらさも受け継いでいる.8bpc までしか扱えないが,初期段階ではプロトタイプが書きやすいので,油断しているといつのまにか目前に迫った締切に終われて最後までこれで書き切ることがよくある.今すぐダウンロー
Blender
OSSの統合3Dソフト.近年すごい速さで機能とコミュニティが成長している.他の3Dソフトに負けず劣らず操作が独特なのが難点だが,2.8でだいぶ改良されるらしい.
Vezér
OSC (Open Sound Control) や MIDI で他のソフトを制御するためのもの.

*1:http://www-art.aac.pref.aichi.jp/research/pdf/1998/apmoabulletin1998p7-32.pdf

*2:水銀灯を光源に使用したプロジェクタは緑に色被りする

*3:一部のデータプロジェクタでは,全白輝度を上げるために彩度が犠牲になる

*4:Processing では 8bpc の画像しか扱えないので画質が良くない.本当は 32bpc が扱える環境,たとえば OpenGL などで書くべきだったが,時間がなかった.前田地生許してくれ

*5:より直接的にいうと,ローパスフィルタ

NITECORE LA10 CRI 第一印象

小型ランタン NITECORE LA10 CRI を購入した.3000円を切っており,この手の商品には珍しく高演色性をうたっている製品.

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評価

第一印象

帰宅後ほぼこれの明かりのみで過ごしてみた.何がどこにあるか大体わかっている環境なら十分使えるといった印象.安いので,複数設置すれば影が消えていいかもしれない.

Pros

  • 高演色性.このたぐいの製品ではあまりない.
  • 非常にコンパクト.スティック糊とほぼ同じサイズ.
  • それなりに明るい.目が慣れれば一番暗いモードで半径2mくらいは見える
  • ホヤを収納できるので,探し物をするときに懐中電灯のように使えなくもない.
  • 底面の磁石で鉄部に取りつけることができる.
  • 単三電池一本で動く.入手性が高い電池が使えるのはありがたい.

Cons

  • スイッチは頻繁なオンオフには向かない作り.やや接点の耐久性に不安を感じる.硬いシリコングリスを塗ったらフィーリング自体はかなり良くなった.

購入先

全光束にして6割ほど明るく (85 lm 対 135 lm) ,かわりに演色性の低い CRI の付かないモデルもある.

ロータリエンコーダのノブを作る

MJF方式の3Dプリントは独特の渋い質感があって良いので,ノブでもひとつ作ってみようかと思い立って試してみた.秋葉原あたりで売られているノブはどうも機能一辺倒で,多少滑ったりしても良いから見てくれのよいものが欲しいという向きにはあまり良いものがない.これは滑りやすいことを除けば案外よくできたものだと思う.もう少し鈍い光沢で,かつ角が立ってくれると良いのだが,あまり高望みするものでもないかもしれない.

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DMMに頼んだところ斜めに積層されてしまったので,微妙に歪んでいるように見えるのが気になっている.高い送料を我慢してShapewaysなどの積層方向指定サービスを使うか,DMM宛に見積を取ってみるかである.

まずはプロトタイプということで,側面にテーパのついていない円筒形と,膨らませた七角形を試してみた.円筒形のほうは何にでも馴染みそうだなと思うが,七角形のほうも粗く皮をむいた大根のような質感で捨てがたい.七角形のほうに関していえば,天面をフラットにしなくて良かったと思う.

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正七角形の各辺をその両端を通る円弧で置き換える.円弧の中心は辺の反対側にある頂点

寸法は直径14mm×高さ18mm.

なお,MJFの3Dプリントで何かしら作ろうと思ったのはそもそも以下のツイートがきっかけ.瓦や中国の古い石畳のような色合いに見えてとても良い.

MacBook Pro の問題雑記

ジェスチャが落ちる

MacBook を使っていると,3本指スワイプの戻る/進むジェスチャが効かなくなる問題が起こる.昔からあるバグだと記憶している. macOS には詳しくないのでデバッグをできるわけでもなく,検索するしか手がない.今回は Stack Exchange に回答のあるとおり,一旦スリープさせたら解決した.

pmset displaysleepnow; sleep 5; caffeinate -u -t 1

キーボード

MacBook のキーボードが時々効かなくなる問題については Apple が問題を認めて交換プログラムが開始されたとのことである.以前,間の悪いことに Mac を映像出力用の機材として使っているときにキーボードが壊れ,そのときは外付けキーボードで凌いだのを思い出した.OpenGL が deprecated になる問題を含め,手軽な映像演出用のパソコンといえば Mac みたいなのを考え直すべき時期なのかもしれない.高信頼性が必要なシステムはどうせ専用機材なのでどうでも良さそう.

ついでに Touch Bar については物理 Esc キーがないとそれなりに困る場面があるので,次のモデルでは物理 Esc だけ復活させてほしい.音量調整については Touch Bar のほうが便利であるように思われる.

Google Maps の混雑表示を過信してはいけない

キーボード自作計画はまったく進んでいません.それはそうと HP の MJF 方式が DMM 3D プリントで使えるようになったようなので,近いうちに何か作って印刷しようと思います.

はい

家にいるとやる気が出ないので,作業のとっかかりを付けに適当なチェーン店にカフェノマド(死語)をしにいった.スタバでマックをドヤリング.スタバじゃないけど. Google Maps の混雑情報で狙いを定めて行った結果,どうもこれは "usually not too busy" というフレーズとはかけ離れた状態だと感じた.

所在地

  • 秋葉原からほど近い立地のオフィス街.
  • わりに新しい店舗.
  • コーヒー一杯400円程度.チェーン店のなかでは,やや高めの価格帯といえるだろう.
  • 座席はかなり狭い.二人掛けのテーブル席で,15インチのパソコンを対面で広げられない程度.

どういう状態だったか

  • 座席の人間による占有率は5-6割くらい.
    • 受験生っぽい様子の客がけっこう多い.
    • 荷物を見ると,観光客がそれなりに多そう.
    • アトレのスタバほどではないが,中国語がけっこう聞こえてくる*1
  • 座席の荷物による占有率が2-3割くらい.
    • 普段使いの鞄,旅行っぽい鞄,買い物袋がだいたい同じくらいの割合,
  • 武勇伝を大声で吹聴する高齢者が一名,店のド真ん中を占領していた*2

考察

武勇伝を開陳する御仁に遭遇したのは運が悪かったとして,とても体感的には usually not too busy といえる状態ではなかった.考えられる要因はいくつかあるが,基本的には busy かどうかを位置情報データだけ*3で推定することの限界といえそう.

データが集まっておらず,推定を誤った可能性

  • 開店して間もない店舗である:世の中 Google 大先生に情報をほいほい明け渡す人ばかりでもないだろうから,信頼できるデータが集まるにはそれなりに時間が要るのだろうと思われる.
  • 中国人観光客が Google Maps を使わない:中国では Google のサービスは遮断されている.彼らが Google のサービスを使っていないとすれば,位置情報を取得できず,Google の混雑情報に秋葉原から大挙して流入する観光客の行動が考慮されていない可能性は十分にある.

休日の客が極端に行儀の悪い客である可能性

  • 休日の客は極端に長時間,大量の座席を占有する:大量の買い物袋で席を占有する観光客(秋葉原)や受験生(お茶の水)の勉強といったアクティビティは,おそらく休日のほうが多いだろう.僕のようにパソコンを開いてカフェノマド(死語)をしにくる客も多そうである.彼らはみな,座席に対する効率でいえば,どちらかといえば効率の悪い存在であることが考えられる.

改善策

データの面からは,店を覗いて去る行動を追跡するとか,あるいは監視カメラの映像を流用してより認知的に正しい busy さを推定するなどが考えられるが,どちらも色々と難しそうに思える.

それよりも,看板を掛け替えて席料を明示的にチャージする*4方式にするか,屈強な店員を雇って治安維持にかかるか,といったところだろうか.あまり治安のよい解決を思いつかないあたりで性格の悪さがばれてしまう.

さいごに

武勇伝に遭遇しなければ && 席が狭いのを我慢すれば良さそうな感じがしたのでまたそのうち行こうと思う.

*1:ただし後述の武勇伝吹聴のほうがはるかに大声だった

*2:夫婦の片方が大声で喋って,もう片方が常識的なボリュームの声でそれに答えるというかたちだった.耳が遠いわけではないと思うのだが……

*3:たぶん Google が取っているデータって位置情報しかないはず.店舗のPOSデータとかと連動していたらまた別かも

*4:あらゆるものにはっきりと値札を付けるのはなんとなく日本では嫌がられそうだなと思ったりしている.エビデンスはないし, WeWork とかはそれで回っているようにも見える

2018-03-21

山種美術館

桜を題材にとった大量の日本画は見応えがあった.桜の花弁のように,薄くて光を拡散するものをどう表現するかの相違がみられて楽しい.淡彩素描としてさらっと塗って紙色と対比する,画面に対して盛り上げる,ぼかして塗る,油画のように塗るなどなど.

半分くらいの絵を近くで見ることができ,また比較的空いていたので立ったりしゃがんだりしながら視点を変えて眺めた.金箔を例に出すまでもなく,日本画は拡散反射の度合いが画面の場所ごとにまったく異なる.たとえば,紙は胡粉よりも多少つややかで,質感に異方性がある.

山種美術館では照明はおおむね天井に固定されていたから,縦方向に視点を移動するのが違いを最も強く感じられる.視点移動で知覚される質感の違いが意図されたものだとすれば,西洋絵画とはまた違う立体感の演出方法だと感じた*1.額に入れてガラスで覆ってしまうと,このあたりの面白みが少し減ってしまうようにも思われるが,作品保護という面もあるので一概に批判もできない.

金箔地のつくる空間については面白そうな研究*2を見つけた.この人の研究が僕の思っていたことをほとんど網羅してくれているので,そのうちNDLに読みに行こうと思う.

《醍醐の桜》(奥村土牛)は,いずれ実際の桜を見に行きたい.今年はもう咲いているようだ.土牛といえば,薄い絵具を何度も塗り重ねてあの色彩に到達したと読んだことがあるが,それだけではないように思われた.ひとつの塗り跡の中心は胡粉が,周辺は色のついた顔料が支配的であるように見えたが,絵具を薄く溶くと完全に乾くまでの間に何かの性質によって分離するのだろうか.

《春静》(東山魁夷)は,杉林と桜で顔料の凹凸の目の方向が異なっていたのが印象的だった.杉林では水平方向に筆の目が通って見えたが,桜は点描のごとく等方的に描かれていた.《桜花》(小林古径)は,花とともに赤い若葉を正面から描いており,端正で簡潔だった.

それにしても,山種美術館に行くと毎度雨や雪に見舞われているように思う.

根津美術館

近いので,根津美術館まで足を伸ばした.香合にはまったく興味も知識もなかったので,面の張りや細工の技巧を眺めるくらいしかすることがなかったが,そうして見るだけでもなかなか面白い.展示されているものの質感を頭の中でアルマイトなどに付け替えたりしてみると,不思議とそれでも成立しそうに思えてくる.折角なので微妙な面の歪みをスケッチしようと試みたが,どうもうまくいかない.形を強調して描くと良くないので,別途矢印などで示すのがよいのかもしれない.

庭園は静かで,冷たい雨に濡れる緑は心が落ち着いてよいものだった.橋の面から水面までのレベル差が300くらいしかなく,これくらいになると水が随分近くにあるという感じがする.現代の水盤とは違って,底が見えず,おそらくは軟らかい泥だろうというあたりから緊張感が出てくるのかもしれない.

石は濡れると表面仕上の表情があらわになる.粗面の仕上でもある程度空や周囲の明暗くらいは映るようになるから,幅広に浅く面を取っておくだけで随分それが際立つというのはひとつの発見だった.建材の知識があれば,何々仕上がどうと書くこともできただろうから,惜しいことである.

自作キーボード

予想されたことだが,まったく進捗していない.足の形をどうしたものかというあたりで無限に足踏みしている.

気分転換に,身の回りの面取りの半径を少し調べた.MacBook Pro Retina のカドは C0.14 くらいで面取りしてある.Anker の USB-C ハブはC0.2くらいだった.すごい世界で戦っているものである.

*1:2018-03-25 追記: 西洋絵画と日本画の違いについては,小林英彦:色と質感 浮世絵と国絵図から見えてくるもの,色の博物誌──江戸の色材を視る・読む pp.169-172 に少し述べられている

*2:文 眞英:総金箔地屏風絵での表現技法の再解釈による現代の空間表現について,https://www.housen.or.jp/aid/painting/result/pdf/26_06_wen.pdf